きょうを書いとこ日記

きのうとほんの少し違うきょう。だけど遠いあの日とはだいぶ違う。何から書こうか。ええと、そうだな、とりあえず、

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チャリンコ爺さま

それは暮れなずむ夕方の商店街で起きた。

私はタクシーの後部座席に座っていた。
前方に自転車を漕ぐ人の姿が見えた。
前傾姿勢でお尻を持ち上げて漕いでいる。

ここは登り坂なのだ。

あの自転車、なかなか前に進んでいないなあ。
その自転車を、タクシーは今まさに追い抜く。
私の横を自転車は前方から後方へと流れていく。
窓の外を、流れてゆく途中のひとコマ、
漕ぎ手の必死な形相が見えた。

年寄りじいさんである!

じいさんの顔は既に遠く後ろ、豆粒大になった。
今も懸命に登り坂を漕いでいる。

次の右折で商店街に出る。
タクシーは右折寸前で先方の車に追いつき、
T字路の車の流れで暫しの渋滞に入った。

数分間停車していた頃か、
窓の外にはなんと、チャリンコじいさんの顔がある。
懸命に漕いで巻き返してきたのだ。
このタクシーに、一度は抜かれたものの
こうして挽回して今や抜き返そうという勢いである。
おっと、抜かれるな、じいさんに。

その瞬間、タクシーは踏み込んで直進してすぐに右折した。

ドン。

えっ!?
タクシーは右折の際に何かを巻き込んだ。

やべ。チャリンコじいさんかも。

「今、ドンと言いましたけど」
運転手に反応ない。
ええっ。いいの?

確かに、巻き込んだと言ってもスピードを上げてはいない。
右折したタクシーの後部ボディに自転車の前輪がぶつかり、 ハンドルを取られて自転車の車体が更にどこかにぶつかった。
そんなところだろう。
あの程度なら、普通は軽い転倒ですんでいるかもしれない。

でも相手は、年寄りじいさんなのだ。

咄嗟にブレーキをかけないこともあるだろう。
そうしたら、車輪が回転を緩めない分、大きく背後に転倒するだろう。
逆にブレーキをかけ過ぎていたらどうだ。
お尻をあげた身体ごと前のめりに浮き上がってしまい、 結果じいさんは前方宙返りをしてから路面に叩きつけられるだろう。
そればかりか、咄嗟にハンドルをとられて制御できず、 商店街の角っこにある八百屋に突入し、そのまま並べられたキャベツやトマトの中にうっぷした上にダメ押しで石段に頭を打ちつけた可能性だって捨てきれない。

「あの、今ドンと言いましたけど」
私はもう一度、運転手の良心を確かめるように言葉にした。
反応のない運転手から目を逸らし私は後ろを振り返る。
ドンという音を残してこの車が右折したコーナーは遠くなりつつある。

そのコーナーをくるっと曲がって今、
ひとりの自転車漕ぎが現れた。

じいさんである。
おっ。じいさん。生きてたな。

ドンはやはりチャリンコ爺さまが車にぶつかって横転した音のはずだ。
大事には至らず、爺さんは立ち上がり、再びチャリンコに跨り、漕ぎ出したわけだ。
コーナーから姿を現わすまでにかなり時間がかかったのはそのためなのだ。

その豆粒大のじいさんが懸命に漕いでいる。
たぶん、このタクシーに追いつくことはもうないだろう。
しかし、じいさん、本気(マジ)で向かってきている。


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  1. 2008/05/16(金) 10:57:08|
  2. きょう見かけた人

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