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きょうを書いとこ日記

きのうとほんの少し違うきょう。だけど遠いあの日とはだいぶ違う。何から書こうか。ええと、そうだな、とりあえず、

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Aは誰でしょう?

Aは女性ロックシンガーである。最近、女性ロック歌手が希少であったこともあり、Aは異彩を放っている。 ロックの持つ攻撃性と個性的な歌声、それに美貌と存在感で人気を得ている。

しかし。

ボーカリストとしてのAは若くして既に下降線に入っている。
高い音域の声が出ないのだ。
もともと出まくっていたわけではない。
これまでもライブでは誤魔化し誤魔化しやってきた。
これまでの度重なる無理な発声もあって、
これ以上喉に負担をかけると声が出なくなるおそれがある。
彼女は危険音域に挑戦することを諦めた。
いや、正確には周囲に諦めさせられた。

生声は一部、封印する。
ライブでは危険音域に入ったら、声を他の人に譲るしかない。
バックコーラスのひとりBが、隠れて主旋律を歌うのだ。
これまでに輪をかけてフェイクな嘘の上塗りライブをやるのだ・・・。
Aのベストヒットのサビの部分には危険な高い音がある。

今年は、全国ライブをやる最後のチャンスである。
何せ昨年度セールスで上位ランクインしている。
Aは旬のアーティストなのだから、動員力は見込まれている。
無理してでも日本じゅうを廻らなければならない。
廻ればファンを固定化できるのだ。
音楽業界では生ライブをやると、観客はアーティストの存在感にうたれ、
その後も楽曲を買い続けてくれるというデータがある。

Aは悪夢をみた。

夢の中で、Aは大好きなヒット曲を歌っている。
サビにきて身体が硬直する。もう、歌ってはいけない。
マイクに口を近づけたまま、お魚のようにパクパクする。
目の前の観客は酔っている。透き通った声が会場を貫いていく。
その声はバックで歌っている“ゴースト・シンガー”の声だ。
この瞬間、メインボーカルはわたしではない。Bである。
Bは自分を隠して歌い、その美声で目の前の観客を酔わせている。
最前列の観客は、その歌声に雷に撃たれたように失神して倒れる。
会場は興奮の坩堝となる。
これはマジックショーだ。二人羽織りである。
目の前の人形が歌っているのではない、背後にいる影が歌っているのだ。

Aは悪夢から目が覚めた。

もしも、つらいのならね、とマネージャーは言った。
つらいのなら、今年全国ライブをやり遂げたら、数年はライブをやめてもいいよ。
今年ライブに来てくれた人は、i-TuneやCDショップで楽曲を買い続けてくれるから。
2年か3年は大丈夫かな。ニューアルバムの収録は、スタジオで発声時にエフェクトをかけ、
更にあとで別のサウンドをかぶせたお化粧声に仕立てましょうね。
しばらくは音楽マーケットの一線から降ろされることはないから。
ライブなしでも、売れるんだからさ、楽勝ってもんしょ。

Aがサビを歌えない全国ライブが近づいていた。

Aはこのところ機嫌が悪い。
Aはアーティストとしての今後を誰かに的確に示唆してもらいたい。
相談相手のひとりと食事をしていたところを、パパラッチに撮られた。
アタマにくる。相談にのってもらっただけ。関係をもったわけではない。
それに関係を持とうが持つまいが、ほっといて欲しい。
相談の内容だって聞くんじゃねえよ、タコ。
人の弱みにつけこみやがって。とっとと失せろ。
心の中で沢山の悪態をついたけど声には出さなかった。
パパラッチはしつこくついてきた。
うざいんだよっ!と叫んでやろうかと思った。
だけど、叫んだら彼らの思うツボだ。
記事ネタになる。
出かかった言葉を呑む込んで、Aは「チッ」と舌打ちをするにとどめた。

翌日のスポーツ誌。
「Aが本誌記者に向かって唾を吐いた」と掲載された。
舌打ちしただけなのに、唾を吐く?

Aのステージ演出家がスポーツ誌を読んだ。
彼の中で何かが閃いた。
これ、使えるかも。
パンクロッカーっぽくていいじゃん?ねえ。

ペッ、ペッ。

Aは翌日から演出家によって「唾の吐き方」を練習させられる。ペッ、ペッ。
今度の全国ライブでAが新たに披露するステージパフォーマンス。
それはステージから最前列に向けての「唾吐き」だ。
歌の練習よりも多くの時間が費やされる。
いくつかの曲間や間奏時間に、カミシモにステージを横切りながら、
客席に向かって薄い唇の間からペッと唾を吐く。
カッコよく吐きつけなきゃダメだよ、Aちゃん。
演出家の要求は厳しい。

ステージの端で振り返りざま。
首は斜めに、目は流し目で最前列の男の子を見つめ、
「てめえみたいなカス、アタシに近づくのは十年早ええよ」
みたいな高慢な感じで見つめてから、ひと吹き、ペッだね。
上唇の裏に舌の先をあててからペッと音を出して
薄い唾を吐いてから歩き去る。ペッ。その調子。
特訓は続く。

もう唾なんて出ない。
だいち、観客に向かって唾を吐きかけるのなんかイヤだ。
ペッ、ペッ。ああ、アタシの神様。ペッ、ペッ。
アタシは何をやってるの?ペッ、ぺッ。
でも、やらなくちゃ。

Aは思った。

これまでのライブで、アタシは最前列の観客を必ず数人は失神させてきた。
それはアタシがロッカーである証でもある。
こんな状態のアタシでも、今年だってまだ倒せるわ。
自分が出せるオウラの限りをつくして、最後に唾でイカセテやるの。
失神した人をスタッフが手際よく会場後方に運び去るタンカを、
目で追いながらアタシは旋律の続きを歌っていたい。

ライブでは、サビの歌声になる前に決着をつける。
サビはアタシじゃないから。
アタシはきっと負けない。
アタシは間奏で勝負する。


さて、Aは誰でしょう?
Aの周辺の人から聞いた話をもとに、
僕なりの妄想でふくらませています。
この妄想で、だいぶAからかけ離れたかな…。

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  1. 2008/10/03(金) 19:42:28|
  2. きょうの体験

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